四姉妹と傘

 東京時代の知り合いに美人で評判の四姉妹がいる。面白くて気持ちのいい連中なので、ちょっと紹介してみることにした。

長女

 長女は23歳のOLで、名をアマガーサと言う。スタイルの良い、すきっとした美人だ。快活で豪快な笑い方をする。白いYシャツにパンツルックが良く似合う。雨の日に出歩くのが好きと言う、風変わりな趣味を持つ。就職難にも関わらず引く手あまたで大手商社に就職。職場では新米ながら辣腕を発揮しているそうだ。
 かなりの酒飲みで話が合うが、いつも飲み過ぎてしまうのが欠点だ。酔うと笑えるが下らないジョークを連発する。言いながら自分でも笑ってさらにエスカレートする。うっかりするとおっさんに見えてくる。
 仕事帰りに電車で寝過ごして気づけば終点で終電なんかはざらだ。以前、深夜にかかってきた電話のことは忘れない。
「いまさ、なんでか佐倉にいるんだけど、車で迎えに来てくんない?」
 うちからは二時間の距離。無論、丁重にお断りした。

次女

 次女は19歳の音大生で、名をヒガーサと言う。おしとやか、という少々時代錯誤な女性で、線は細くて肌も白く、ワンピースに麦わら帽子被せたらお父さんたちが青春を思い出してしまいそうな美人だ。
 三歳から始めたピアノで音大に入学。いくつかクラシックのコンクールで賞も取っているらしい。らしい、というのは実際に演奏しているのを聞いたことがないからだ。極度の恥ずかしがり屋で演奏会に誘われたことがない。もしかしたら嫌われているのかも知れんが。
 空想に耽るのが好きで、良くぼんやりしている。会話しているはずなのに聞いてなかったなんてことも多い。ごまかして照れ笑いするさまが可愛らしくて腹立たしい。
 最近、恋をしているらしく、ぼんやりに拍車がかかっている。姉がああいう性格なので何故か相談相手に抜擢されたのだが、話を聞いてもなんだか要領を得ない。ハンサムで頭が良くてスポーツ万能で友人も多くてハンサムだと言うことは分かった。だがいくら聞いても人となりの想像がつかない。妙なフィルターがかかってるんだろう。木もれ日の中を手をつないで歩きたいんだとか。まぁ、がんばってくれ。

三女と四女

 三女と四女は双子で15歳の中学生。名をバンガーサとカラカーサと言う。どっちが三女で四女なのかは忘れた。メガネと服装で辛うじて見分けがつく。親もどっちがどっちかはあまり気にしてないようで、よく「バンカラちゃん」と一緒くたに呼んでいるのを聞く。
 バンガーサは陸上部で県大会の短距離で入賞するほど足が速いらしい。性格もそれに似て、じっとしているのは性に合わないとばかりにうろちょろして落ち着かない。短髪で、服装もTシャツに短パンという小学生のような軽装。勉強は苦手で未だにパーセントがなんだか分かっていない。一度だけ数学のテスト勉強を見たことがあるが、お互いこらえ性のない性格なので、おはじきを取り出して「こっちが二個でしょ、こっちが三個でしょ」と説明したら「馬鹿にするな」と怒り出し、ものの一時間と経たずに喧嘩になって庭でバトミントンをした。そうしたら今度はお互いの負けず嫌いがぶつかって、入っただの入っていないだのと、熱くなりすぎて大喧嘩の装いになった。
 カラカーサは読書部で古典好き。頭が良くて常に学年のトップを維持している。人付き合いはあまりせず、一人でのんびり読書しているのが日課らしい。本好きが災いして目を悪くして以来、眼鏡をかけている。コンタクトは面倒だからしないのだそうだ。おかげで一部マニアに絶大な人気を誇っている。
 普段は無口だが、三国志の話になると人が変わったように熱く語り始める。周ユのカッコ良さについてとうとうと語る様は、少々将来を不安にさせる勢いがある。
 いつも無愛想で人が悪そうに見えるが、姉妹の世話係が身についているらしく、良く気がつき、面倒見がいい。家にお邪魔したとき、手持ち無沙汰でぼんやりしていたら、ふっと現れて何も言わずにお茶を出して去っていった。そそっかしい片割れのために折りたたみ傘は当然のごとく二本常備しているらしいし、ぼんやりした姉の代わりに足元に注意しては手を取って転ばないようにしているとか。ぐでんぐでんの姉の着替えを手伝ったりもしているらしい。また、親に負担をかけたくないという理由で高校は公立に行くのだそうだ。服装にあまり気をかけないのも、そういうところなのかな。

どうでもいいが

 「こんなこいるかな」ではヤダモンが好きだった。