「プロは無償で商品を作ってはならない」とか言う前に

 みなさん、まず「契約」という言葉について辞書を引いてみましょう。

 正直言ってあきれた。


 直接金銭を受け取らなければ「無償」? 「対価」って現金?

 世の中には金銭を受け取るどころか支払ってでも仕事をするプロってのが存在する。支払うとは言え、仕事である以上、どこかしらにお金の流れが生まれている。ただそれが最終的に自分まで回ってこなかったり、運用にかかる費用をまかなえなかったりする。でもその仕事をしたいから、金銭を支払ってでもやる。スポーツや美術・芸能では顕著だ。

 ついでに言うと同人とかアマチュアだとか言ってる人でも、何かしら販売してたり「対価」を受け取っている人ってのは、それだけでプロと呼ばれる。たとえ利益が生まれなかろうと、一銭も売り上げが出ずとも、だ。

 オレも一応、プロのプログラマーってのをやってるけど、依頼されて直接的な金銭授受の契約をせずに仕事をすることがある。ただし直接お金を受け取らないからと言って、「無償」ってはずがなく、きっちり「対価」を支払ってもらってる。

 依頼者が金を持ってないってこともあるが、目の前の二束三文より仕事を依頼されて請けることそのものに、大きな対価を含んでいるからだ。

 仕事は仕事を生む。そして仕事をしたことは実績となる。

 分かりやすい例で言うと、依頼者が自分よりも知名度が高かったり、大きなコミュニティを持っている場合だ。そういった仕事には潜在的に大きな対価を含んでいて、仕事を無事に終わらせれば依頼者が自分の宣伝役となり、その仕事が契機になってより大きな仕事が回ってくる可能性がある。無理に金銭を要求して半端な関係を築いたり、契約そのものがおじゃんになるより、将来を見越して金銭授受の契約を結ばないほうが、結果として受け取る対価は大きくなる。

 また依頼者自身が広告にならなくとも、仕事をしたことが実績となるので、自分で売り込むときの宣伝にも利用できる。

 新人の美術家や作家が新人賞やその他賞金の安い賞に応募するのは、受賞によって得られる金銭そのものではなく、賞を取った実績を元に大きな仕事を請けたり、仕事をするフィールドを得ることが目的になっていることが多いはずだ。

 また企業が売り上げにならない、もしくは赤字になる契約を結んで仕事することもある。その仕事自体がテストケースで、成功すれば将来的に大きな利益を見込める場合や、契約相手の信頼を得ることで次の仕事につなげる場合だ。また社内での研究開発の類も、売り上げどころか一方的に出資することになる仕事だ。企業が何かのスポンサーになることも、それ自体は大した利益にならないが、スポンサーをしていることそのものが大きな宣伝効果になるため、潜在的な利益は大きい。

 今回の件で言うと、三浦建太郎は「がっくぽいど」のイラストを手がけたことで、非常に大きな対価を得られることになる。

 GacktVOCALOID 、「ベルセルク」のそれぞれを「一般的な」知名度の高さによって並べてみれば分かる。三浦建太郎も「ベルセルク」も業界や漫画・アニメ好きの間で有名かもしれないが、一般メディアにとりあげられたことはほとんどないのだ。ましてやGackt とは比較にすらならない。

Gackt をモデルにしたVOCALOID のパッケージイラストに『ベルセルク』の三浦建太郎氏」という宣伝文句が、三浦建太郎にとってどれほどの対価になり得るか。少なくともパッケージイラストの原稿料なんかとは比較にならないことは確かだ。

 まぁ人間ってのは無償で人助けとか芸術は自分のためとか大好きだから、騒ぎたい気持ちも分からなくもないが、水戸黄門だって遠山の金さんだって山本太郎だって、みんな超大金持ちなんだってのを忘れちゃいけない。しかも彼らきっちり顔晒してるから、無償と見せかけて宣伝効果はばっちり。

 むしろお金なくて不器用なのは、きっちりお金をもらってる「必殺仕事人」。